あれから僕らはたくさんの話をした。
マスターがニューヨークの老舗ゲイバーで修業をしていた時代の話。
美咲さんの今までの恋愛経験。
そして、謙吾さんの今までの成功話や失敗談。
下世話な話から、高尚な話までとっても濃密な時間を過ごしたんだ。
ー帰り道ー
『いやー、今日も楽しかったなぁ。』
『そうですね。』
『一輝君も出会った当初に比べると、なんだか良い表情をするようになってきたね。』
『謙吾さんからそういうことを言ってもらえると嬉しいです。』
『ちゃんとそういう言葉も素直に受け取れるようになってきたね。良い変化だ。』
『でも、僕なんかまだまだです。』
『ハッハッハ、一輝君は、自分に対して厳しいな。』
『え、どういうことですか?』
『今まで学校や、仕事場、両親から、
「ちゃんとしなさい」「もっと頑張れ」って言われて育ってきただろう。』
『確かに。』
『それって大切なことでもあるんだけど、
「ちゃんとしなければならない」と思えば思うほどしんどくなるんだ。』
『へー。』
『でも、マスターや美咲はそんな感じが全くしないだろう。』
『言われてみると、みんななんだか自然体って感じです。
これって謙吾さんからも同じ感じがする気がします。』
『だろ?
一輝君は自分の中で「ちゃんとしなければならない」って厳しくしているんだよ。』
『厳しい?』
『もっと自分に対して寛容になったらいいよ。
これはマスターからの受け売りなんだけどさ、
たとえば、「今日はちゃんと時間通りに起きれた」とかそんなことから褒めてやったらいいさ。』
『そんなことから?!』
『「セルフイメージ」という言葉があるだろ。』
『セルフイメージ……。僕は低い方だと思います。
セルフイメージを高めるためにはどうしたらいいんだろう?』
『セルフイメージって高めたいって思えば思うほど、自分は低いんだってことを言ってるんだ。』
『え!!』
『セルフイメージが低いときはめちゃくちゃ自分に対してダメ出しをしているんだ。』
『あー、それとてもやってます。』
『だから、さっきも言ったように自分をねぎらってあげるんだ。
自分に対する評価が、実は周りに対する評価にもなるし、それがそのまま自分にもかえってくるんだよ。』
『なんで自分自身なんですか?』
『自分に一番近くに存在する人間って、変な感じがするかもしれないけど自分自身だからね。
最も身近な自分に対して厳しくしていたら、そりゃ、周りもそんな目になるよな。』
『自分を褒めれば、褒めるほど、周りも褒めれるようになって、そこから周りが褒めてくれるようになるんですね。』
『そうなると、自ずとセルフイメージもいつの間にか高くなっているんだ。』
『そっか。
3人とも自分の好きなことで生きていて憧れます。』
『最初に一輝君に出会ったとき、刹那的に生きてるんだなぁって思ったんだ。』
『僕、あの時どうしたらいいかわからなくて。』
『そういう一時的な快楽も人生には必要だと思うんだ。
でも、もし一輝くんが変わりたいのに、その場しのぎでずっと刹那的な生き方をして、その変わりたい想いに蓋をしていったら最終的にはどこかでそのツケが来るんだ。』
『さっき、謙吾さんが来る前にマスターが
「大概の人は人生の岐路で選択肢に気付かないことが多い」って言ってて。
その時、謙吾さんと最初に会った言葉を思い出したんです。』
『「自分の人生は自分で決めるもんだよ」だったね。』
『その言葉が無かったら、僕、今も同じままだったかもしれない。』
『実は気付くのはいつでもよかったんだ。人にはそれぞれのタイミングがあるからね。』
『謙吾さんのおかげです。ありがとうございます。』
『どういたしまして。
これからの一輝君の人生が楽しみだな。』
(これから僕はどうなるんだろう?)
『いきなりだけどさ、サムライってどんな感じで生きていたと思う?』
『サムライ?あの時代劇に出てくる人たち?』
『そう。彼らは日々鍛錬をし、己自身を磨いてきたんだ。
今の俺たちからしたら、考えられないような血のにじむトレーニングをしていたんだろうな。』
『大変そうですね。』
『その時代のことを考えると、今はとても便利な世の中になったと思うよ。
でも、きっと彼らのこの国を想う気持ちがあったからこそ今の時代があるんだろうね。
ありがたいことだよね。』
『そんなこと考えたことありませんでした。
高校の歴史の時間なんて暗記だけでつまらないなぁって思ってましたし。』
『俺もそうだったし、最近になってそう思うことが増えてきたよ。
美咲もマスターも俺も、昔のサムライと比べるとおこがましいけど、何だか通じるものがあるなって思うんだ。』
『自分のやりたいことに対して、皆さん楽しんでいるし、真剣ですよね。
僕もそうなりたいな。』
『一輝君なら大丈夫さ。』
『え、なんでわかるんですか?』
『一輝君は一輝君自身の人生の主人公だからね。
自分が主人公の映画をこれからなんとでも作っていける。
こんなに楽しいことってないよな。』
謙吾さんは思いっきりいい笑顔で僕に言ってくれた。
僕自身が人生の主役。
今まであったたくさんの過去の出来事はきっと今のためにあるんだ。
今、この瞬間のためにキャスティングされた過去の出来事。
そして今この瞬間は未来のためにキャスティングされている。
過去と未来の自分自身が、きっと今の僕のために用意してくれている壮大なストーリーなんだろう。
マスターも美咲さんも、謙吾さんもきっとこの視点があるんだろう。
僕が、僕自身で、ストーリーを作っていく。
『一輝君なら大丈夫さ』
謙吾さんのこの言葉になんだかわからないけど自信が湧いてきた。
もうすぐ駅だ。
謙吾さんとの楽しいひと時ももうすぐ終わりだ。
お別れの時間だ。
『謙吾さん、今日はありがとうございました。』
『こちらこそ、ありがとう。』
『謙吾さん、あの・・・・』
『どうしたんだい?』
『僕、今まで自分自身がどうやっていいのかわからなくて。
霧がかった薄暗い森の迷路の中をずっとさまよっている感じでした。』
『でも謙吾さんに出逢えて、そこからマスターや美咲さんにも出会えました。
暗がりの迷路が一気に晴れていった感じがします。』
『将来に対して不安でしかたなかった自分が、少し楽になれた気がするんです。
今はまだ、はっきりと決まってはいないんだけど、パーソナルトレーナーの勉強をして、もっとその人の人生が良くなるお手伝いをしたいと思えるようになったんです。』
『お、それは良かった。
これからもきっと一輝君の前に様々な困難が立ちはだかると思うんだ。』
『でも、今の一輝君ならきっとなんとかなるさ。』
『はい!』
ほんの少しの間、僕と謙吾さんの間に沈黙が流れた。
(言うなら今しかない。)
『僕……』
『……。』
『僕……、謙吾さんと付き合いたいです!!』
(一輝の心情)
(うひゃーーーーー、言っちゃったよーーーーーー!!!!!)
『嬉しい言葉をありがとう。俺も同じ想いだよ。』
『でも、今は一輝君のこと、そして俺自身のことを考えたら、きっと今の関係のままがいいんだろうなって思うんだ。』
『……。』
『一輝君には話しておかないといけないな。
実は来月から東南アジアで新しい事業を立ち上げようと思っているんだ。』
『えっ!』
『おそらく、とても忙しくなる。』
『……。』
『でも、ちゃんと日本にも帰ってくる。
その時に一緒にまた話をしたり、どこか遊びに行ったりしよう。
今は、ネットも発達しているから、オンライン通話とかですぐに繋がれるしな。』
『ホントですか?』
『んで、落ち着くころには一輝君もまた色々なことが変化していると思うんだ。
お互いに良い人生のストーリーを作って、そこでまた俺らが折り合いがつくなら一緒に生きていこう。』
『謙吾さん….。』
『これからもよろしくな!!』
『はい!!』
謙吾さんの分厚く、温かくて、大きな手。
僕はその手をしっかり握りしめた。
僕が僕らしく、僕の人生を歩んでいく物語がこれから始まるんだ。
エピローグへつづく!
レベル
『あなたの人生の主人公はあなた』
はーい、マスターよ!
サムライソードどうだったかしら?楽しんでくれた?
ここまで読んでくれているってことは熱心なサムライソードファンねwありがとう☆
サムライソードは一輝君の成長姿を描いた物語。
で、大概の人が『人生ってこんな物語のようにバラ色に進むわけ無いだろ!』って思ってるの。
これってすっごーーーーーく勿体無い!!
確かにこの物語のように上手くはいかないかもしれないわ。
でも、あなたの人生の物語の主人公は他でもない『あなた』しかいないの。
そんな『あなたの物語』を面白く、幸せいっぱいにするにはどうしたらいいのか?
『主人公視点』で人生を進んでいくときっともっと楽しくハッピーになれちゃうわ☆
それじゃ、今日はこのへんで!
またどこかで会えるのを楽しみにしているわ♡